美容業あるあると労務面への心配

労働法・労働保険

東海地方の田舎町で【コンサルタント事務所】を運営している元りく社労士です。
今までに多くの美容業のお店を見てきましたが、社労士となった後から振り返ると心配なお店が多くありました。

さて、今回は美容業で見られる傾向と心配なことを以下の3点にまとめました。

  • 労務管理はしっかりと
  • ハラスメント対策は必須
  • 働き方改革の意識を持とう

労務管理はしっかり

練習する時間は勤務時間か?

以前に比べてだいぶ減った印象ですが、美容院の新入社員はとてもハードワークで薄給と言われています。
営業時間中は先輩スタイリストのサポートをこなしつつ、営業終了後は片付けをしてから深夜遅くまで練習をしているので、拘束時間がとても長くなります。
ここで、問題となるのが残業時間が勤務時間となるのかと言う点です。
美容業の中でも練習時間の扱いは若干異なる印象ですが、練習時間が勤務時間にあたるかどうかはその状況によって判断が分かれています。

労働基準法では法定労働時間が定められており、法定労働時間を超えて労働させた場合には時間外労働や休日労働として扱わなければなりません。そうなると割増賃金を支払わなければならないと定められています。
法定労働時間は、1日8時間、1週40時間が原則となりますが、従業員数が少ない事業所の場合は例外として44時間が上限となっています。

しかし、特に美容院の場合、アシスタントとして数年間修行のような形で技術を身につけてスタイリストとしてデビューします。
現在経営者となっている方の多くは、スタイリストになるために夜遅くまで練習をして技術を磨いてきた方が多いかも知れません。昔は先輩の技術を見て覚え、指導を受けて成長するという師弟制度に近い関係性もありました。
ただ、これからもそれをやるのは少し危ないかも知れません。

美容院だけでなく多くの業種で、退職者から突然未払い残業代の請求が届いていると言う事例も多数あります。
練習時間は指揮命令下であったと判断されてしまうと、その時間はすべて割増賃金の対象となってしまいます。

少し話は逸れますが、SNSの扱いにも注意が必要です。SNSを集客のために運用しているスタイリストは多くいます。会社としてSNSの更新や顧客とのやり取りを指示していると判断されてしまうとその時間も労働時間と見なされてしまう可能性があることにも注意が必要です。

管理監督者は誰のこと?

次に管理監督者という言葉の定義です。
労働基準法では、管理監督者とは部長、工場長など労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場にある者を言うとされています。
そして、管理監督者には、時間外労働の割増賃金や休憩、休日の規定が除外されています。

これらをうまく活用したいという思いなのか、店長やマネージャーという役職をつけて管理監督者なので残業代を支払わなくても良いかと言われると少し疑問が出てきます。

数店舗であっても多くの県に出店していたり、数十店舗を超える規模の店舗となれば、店長やマネージャーにも人事労務の決定権があるかも知れません。
しかし、同じ県内や市内に数店舗の規模であれば、代表が実質的に人事労務を管理していることが多い気がします。

また、ここで除外されているのは、割増賃金や休憩、休日の規定だけですので、有給休暇をつけなくて良いという規定はありませんので注意が必要です。

ハラスメント対策は必須

これってセクハラ?

セクハラという言葉が出てきたのは、1980年代と言われています。一般的によく知られるようになったのは平成元年にあったセクハラの裁判が行われたことがきっかけです。この年の新語・流行語大賞にも選出されています。

一般的な会社でもセクハラの問題はよく起きています。
・恋人の有無を尋ねる
・結婚の予定を尋ねる
・男だから、女だからというワードを使う
・不用意に体に触れる
・私生活に踏み込んだ質問をする
そこまでと思われることでもセクハラと言われてしまうことも少なくありません。
業務に関わりのない言動によって、相手が不快に感じてしまったのであれば、それはセクハラと言われてしまう可能性があるということを肝に銘じておきましょう。

これが美容業の場合、お客様の髪の毛や肌に触れることが仕事になります。一般的な会社では身内や親しい間柄でもない限り、人の髪の毛や肌に触れることは滅多にありません。
そして、多くの時間を過ごす仕事場では、お客様や同僚と仕事の話をすることはあってもプライベートの話をすることはあまり多くありません。あっても業務後や休憩中、ちょっとした雑談だけになります。
美容業では接客中に世間話をすることがお客様とのコミュニケーションとして当たり前に行われています。
ここに多くのギャップが生まれています。

お客様は友人ではありませんし、スタッフも仕事では部下や同僚です。線引きはしっかりとしておきましょう。

これってパワハラ?

パワハラは今までは明文化されていませんでしたが、令和2年にはどうしたらパワハラになるのかと6つの典型例でパワハラを整理しています。

職場におけるパワーハラスメントとは
・優越的な関係を背景とした言動
・業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
・労働者の有業環境が害される
この3つをすべて満たすとパワーハラスメントになるとしています。

6類型
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・人間関係からの切り離し
・過大な要求
・過小な要求
・個の侵害
これらのどれにも当てはまらないからと言ってパワハラではないとはなりませんが、わかりやすい形が明文化されました。

ここでも前述の師弟制度の影響がパワハラにも影響を及ぼしています。
上司や先輩から教えてもらうことが当たり前であった時代では、厳しい言葉を使った指導も起こっていたかも知れません。
今では、暴力はもちろんのこと、必要以上に声を荒げることや、何も仕事をさせないということもパワハラと言われてしまうリスクがあります。

セクハラと違うのは、相手が不快に感じたからパワハラだとは言えないというところです。
相手が不快に感じるとしても、それが業務上必要な指導であればパワハラには当たらないことが多いです。何か言うたびにパワハラと言ってくるスタッフもいるかも知れませんが、社労士や労務問題に強い弁護士に相談して適切に対処いていきましょう。

働き方改革の意識を持とう

働く時間は適正ですか?

働き方改革と言われ、ワークライフバランスを求める声も強くなっています。
働く時間の管理はもちろんのこと、休日の取得なども今まで以上に気を付けていきたいところです。

美容業に限らずサービス業全般に言えることですが、人がサービスを提供することで売上となります。座席とサービスの両方が空いていて新しいお客様を受け入れることができ、売上を上げていくことができるのがサービス業の特徴でもあります。
そのような特性から、スタッフの出勤日数によって売上の最大値が決まってしまうことになります。
売上を伸ばしていくためには、人を多く確保するか、スタッフの休みを減らすと言うことをやってきていました。

しかし、時間外労働の割増賃金による負担の増加や、年間休日の少なさからスタッフが集まりづらく定着しづらいという悪循環に陥ってしまいます。
フレックスタイム制や変形労働時間制という制度もあります。お店に合わせた制度で、スタッフが働きやすく定着できる職場作りをしていきましょう。

有給休暇は取得していますか?

こちらも働き方改革の流れで動きがありました。
平成31年4月から年10日以上の有給休暇を付与された従業員には年5日以上の有給休暇を取得させなければならなくなりました。

有給休暇は、同じ会社に6ヶ月以上勤務していて、出勤日数の8割以上出勤している労働者に付与しなければなりません。
お店の制度では有給休暇はないという話や、使いたくても使えないという話をよく耳にします。経営者と一体となっている管理監督者であっても有給は付与されますし、5日を取得させなければならない対象でもあります。
また、有給休暇の利用目的は労働者の自由であるとされています。旅行に行くことも、結婚式に出ることも本来であれば聞かなくても良いことです。

スタッフの出勤日数や稼働時間が売上に直結しやすい業種でもありますので、あまり多く休みにしたくはないというところが悩ましいなといつも感じています。

こちらの5日に関しては全体で取らせることも個別で取らせることもできます。GWや年末年始などの長期連休をうまく使い、有給の一斉付与ということも専門家であれば相談できるかも知れません。

終わりに一言

美容業だけに言えそうなこともあれば、サービス業全般に言えることもありました。他社事例を知っていれば問題が見つかる前に対処を考えることもできます。
労務問題に強い弁護士や社労士に頼ってみてください。

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