雇用保険適用と週10時間以上

労働法・労働保険

東海地方の田舎町で【コンサルタント事務所】を運営している元りく社労士です。
ニュースになっている週10時間以上の労働者に雇用保険を適用する法改正ですが、他にも改正が決まったことがいくつかあります。どこがどう変わったのでしょうか。

さて、今回は雇用保険の法改正について以下の3点にまとめました。

  • 雇用保険の制度
  • 週10時間以上に適用拡大
  • 訓練給付の制限解除

雇用保険の制度

給付の種類

雇用保険法は、以前は失業保険法という名前で失業時の生活保障のために制定されました。それが昭和50年に雇用保険法となり、雇用に関する総合的な機能を備えた法律として現在まで運用されています。
雇用保険法の第1条(目的)には次のように書かれています。

雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=349AC0000000116_20240517_506AC0000000026&keyword=%E9%9B%87%E7%94%A8%E4%BF%9D%E9%99%BA

要約しますと、①失業したとき、②雇用の継続が困難になったとき、③教育訓練を受けたとき、④育児休業をとったとき、に必用な給付をしますという内容になります。

給付の種類はたくさんありますので、有名なものを抜粋してみます。
・基本手当(失業手当、失業給付とも呼ばれる失業期間中の手当)
・就業促進手当(早めに就職するともらえる)
・教育訓練給付金(教育訓練を受けたときにもらえる)
・高年齢雇用継続給付(高年齢時の再就職で賃金が低下してしまったときにもらえる)
・育児休業給付金(育児休業をとったときにもらえる)

毎月もらえるお給料は生活を支えるうえで非常に重要になります。退職したことでお給料がもらえなくなったとき、育児のために働くことができなく収入がなくなってしまったとき、嘱託で再就職したら賃金が大きく低下してしまうということを防いでくれています。

少し視点は変わりますが、ビルトインスタビライザーとしての機能によって、経済的な変化を自動的に吸収してくれる役割もあります。

現在の対象者

雇用保険の対象は、1人以上の労働者を雇用する事業所となります。ただ、5人未満を雇用する個人事業主で一定の事業であれば対象ではないことになっています。
対象の事業所で働く人は基本的には被保険者となりますが、短時間のパートや、一時的に働いている人などに当てはまる人は加入しなくてもよいことになっています。

適用除外となるのは下記のどれかに該当する人になります。
・週の所定労働時間が20時間未満
・31日以上の雇用が見込まれない
・季節的に雇用されている
・学生である
・船員である
・一定の公務員である

今回の発表では、一番上の週所定労働時間20未満が変更されますということになります。

週10時間以上の被保険者に

令和10年から適用拡大

今回発表された法改正の目玉と言えばこちらになるのではないでしょうか。少し先のお話にはなりますが、令和10年から週の所定労働時間が10時間以上の労働者も雇用保険の対象となります。

【雇用保険法、職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律】
○ 雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間を「20時間以上」から「10時間以上」に変更し、適用対象を拡大する(※1)。
※1 これにより雇用保険の被保険者及び受給資格者となる者については、求職者支援制度の支援対象から除外しない。

雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/001207213.pdf

雇用保険の対象が増えるということは、使用者側と労働者側のそれぞれの側面で思うところがあります。
私が考えるメリットデメリットは以下の通りになります。

使用者側労働者側
メリット助成金の対象となる(?)
福利厚生の側面
失業手当
教育訓練
デメリット雇用保険料の増加雇用保険料の増加

まず、使用者側の視点で見ると、雇用保険料の負担が増えることになります。ちょうど私の法人にも労働保険料の緑の封筒が届いていました。事業所の規模によっては額が大きいため、さらに増えることを懸念する方も出てくるかもしれません。
そして、労働者側の視点で見ると、雇用保険料を徴収される分だけ毎月の手取り額が減ることになります。10時間以上20時間未満で働いている方からすると、そこまでたくさん稼いでいないにも関わらず減ってしまうことを嫌だと感じるのは仕方のないことです。

ただ、今回の適用拡大は嫌な面ばかりではありません。私がこのニュースを見て思ったことは、いい面の方が多いのではないかということです。
使用者側で一番大きいのは、事業所自体が助成金の対象となる可能性があるかもしれないということです。助成金の財源は労働保険料で賄われていますので、雇用保険の適用事業所であることや雇用保険の被保険者であることを支給の要件としている助成金が多くあります。短時間のパートさんを数名雇って運営している事業所ですと、たくさん働いてもらうことで雇用保険の被保険者とすることはできました。たくさん働いてもらえばその分お給料の支払いも増えますので、忙しくない時間の費用がかさんでいました。それが、10時間から対象となることで、助成金も対象となるかもしれません。この点についてはどこかで言及されているのかもしれませんが、不確定要素が強いため可能性という程度でお考えいただければと思います。

労働者側の方がメリットは大きいと感じています。徴収される雇用保険料は微々たるものですが、加入していた期間に応じた失業給付を受ける権利が生まれる人が増加します。短時間で雇用保険に加入していないと、退職した瞬間から無収入になります。それが最長で330日も失業給付が受給できるようになると転職活動にも余裕が生まれそうです。
また、教育訓練は失業している間に受けるイメージが強いかもしれませんが、実は在職中でも受けることができます。対象が雇用保険の被保険者となりますので、こちらに該当するかもしれないこともメリットと言えます。
※今回の改正に伴い、失業給付や教育訓練の対象も変わる可能性もありますのでご了承ください。

訓練給付の制限解除

令和7年から

今回発表された内容の二つ目としては教育訓練の拡充になります。こちらは、令和7年からの変更点となりますので、恩恵を受ける方も多くいそうです。

① 自己都合で退職した者が、雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練等を自ら受けた場合には、給付制限をせず、雇用保険の基本手当を受給できるようにする(※2)。
※2 自己都合で退職した者については、給付制限期間を原則2か月としているが、1か月に短縮する(通達)。
② 教育訓練給付金について、訓練効果を高めるためのインセンティブ強化のため、雇用保険から支給される給付率を受講費用の最大70%から80%に引き上げる(※3)。
※3 教育訓練受講による賃金増加や資格取得等を要件とした追加給付(10%)を新たに創設する(省令)。
③ 自発的な能力開発のため、被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるため、基本手当に相当する新たな給付金を創設する。

雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/001207213.pdf

一つ目は、給付制限期間が短縮されます。教育訓練を受ける場合は給付制限はなく、自己都合退職でも今までより早くもらうことができるようになります。
二つ目は、受給できる受講費用の割合が80%に増加します。長期にわたる受講ですと高額になりますのでうれしい変更点になります。
三つめは、在職中に教育訓練を受講した場合に基本手当と同じくらいの給付金を受給できるようになります。今までは、有給を使うなどしなければ給料が減ってしまうところを、抑えることができます。

教育訓練は、求職期間中のスキルアップや生活費の補填などステップアップするためにも非常に有用な施策だと感じています。私の後輩には、IT系のスキルを身につけて転職し年収アップにつながった人や、新しいスキルを身につけて次の会社でも活躍している人が多くいます。

終わりに一言

少し先の話でもある雇用保険の適用拡大と、比較的すぐに来る失業給付の拡大が今回の大きな改善点になります。すぐに専門家のアドバイスが必要になる訳ではなさそうですが、気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。

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