東海地方の田舎町で【コンサルタント事務所】を運営している元りく社労士です。
企業の人事労務に関わっていると管理監督者と割増賃金のお話を聞くことがあります。一般的には割増賃金の対象ではないと言われていますが実際のところはどうでしょう。
さて、今回は割増賃金のお話と最近の判例について以下の3点にまとめました。
- 割増賃金の対象者とは
- 飲食店の責任者はどう判断されたのか
- 就業規則や権限移譲の注意点
割増賃金の対象者とは
なぜ割増賃金が必要なのか
割増賃金と聞くとセットで出てくるのが36協定(時間外に関する協定書)です。
これは労働基準法では働かせてよいと決められている時間数が1日単位、1週間単位で決められているからです。同様に、与えなければならない休日数も決められています。
決められた時間を超えて働かせることは本来違反となりますが、36協定を出すことでこの違反を見逃してもらえることになります。(免罰効果)
しかし、見逃してもらえると言って何時間でも働かせてしまうと労働者の疲労も蓄積してしまいます。働かせすぎが起こらないような仕組みとして、時間外に働かせることができる時間数に上限を決めたり、賃金を余分に支払うことように定めてあります。この余分に払わなければならない金額が割増賃金となります。
事業主に割増賃金を支払わせることで、時間外にたくさん働かせることを防ぐことにつながります。
管理監督者とは
割増賃金は多くの労働者が対象となっていますが、一部の労働者が例外となっています。
労働基準法第41条には適用除外の規定があり、同条2号に「監督もしくは管理の地位にある者」となっている人です。では具体的に管理者や監督者とはどのような人を指すのでしょう。
一般的には、部長や工場長などの役職者を指すことになります。業務内容が労働条件の決定や労務管理をしていて、経営者と一体的な立場にある人のことを指しています。どのような役職がついているかではなく、以下にあげた内容が実態ではどうなのかということで判断されています。
・職務内容
・責任と権限
・勤務の態様
私の知っている会社で、役職が付いたら管理監督者であると言って割増賃金を支払わず長時間労働をさせている会社がありましたが、もちろん違法ですのでマネしてはいけません。
飲食店の責任者はどう判断されたのか
東京地裁(R5.3.3)の判例
令和5年3月3日の東京地裁の判例を取り上げてみます。
飲食チェーン店の運営会社のとある課長は管理監督者であるとして割増賃金が支払われていませんでした。この裁判では管理監督者にあたらないとして割増賃金を支払うよう命令しています。課長としての業務は経営企画業務でしたが、人手不足のため店舗業務が多くなっており権限は限定的であったことから管理監督者ではないと判断されました。
先ほど挙げた実態はどうだったのでしょうか。
・職務内容
チェーン店の複数店舗を統括する立場で、経営企画や出店場所、メニューや価格の案を出していました。
各店舗の採用に関わっており、面接などで応募者の評価も行っていました。
シフト表の作成やタイムカードの管理も任されていました。
・責任と権限
1店舗だけでなく複数の店舗の企画や人事の業務であり、ある程度の責任や権限は与えていたようです。ただし、最終決定は経営者がしていたため、権限はあるが限定的であったと判断されました。
・勤務の態様
慢性的な人不足のため店舗業務の時間が多くなっており、管理する側よりは従業員側であると判断されました。
給料もそれなりの金額となっていましたが、労働時間から見ると決して高いとは言えず、管理監督者ではない人と比べても高くありませんでした。
実態から管理監督者であるかそうでないかを判断した結果、今回は管理監督者ではないという判決となりました。
権限移譲の注意点
責任者への権限移譲
裁判例では責任や権限がどうなっているかという点をよく見られる傾向にあります。組織がいくつかに分かれてくる中規模企業では、部門を統括する立場にあるのかということに注意が必要です。権限委譲は慎重に行う必要がありますが、任せていくことで従業員の成長ややりがいを生み出すことにもつながります。
統括している立場になると働く時間が長時間になってしまうということはよくあります。安全衛生法では事業主は、労働者の勤務時間を把握しなければならないと決められています。管理監督者であったとしても野放しではなくタイムカードなどで勤務時間の管理も必要となっていくかもしれません。
今回のケースのように、その仕事に着任したときは管理監督者であったとしても、人手不足などの要因から実態が変わってくることも考えられます。今後のリスクに備えるため、就業規則などに定めておく「管理職手当」の定義をの見直しも検討してみてはいかがでしょうか。
終わりに一言
今回は管理監督者ではない判決がでましたが、逆の判決となった判例もあります。何も起きなければよいのが人事労務ですが、起きたときに大きくなりがちでもあります。起きないような仕組みにしておくことと、起きたときの対処法を一緒に考えていきます。